REGULATORY INSIGHT
単身入居者の死後事務 ― 住宅セーフティネット法改正で何ができるようになったか
2025年10月、改正住宅セーフティネット法が施行されました。改正の柱のひとつが、居住支援法人の業務に残置物の処理等を加えたことです。単身高齢者の入居を断らざるを得なかった理由の多くは、亡くなったあとの部屋をどうするか決められないことにありました。その手当てが制度として整えられたことになります。
ただし、「連絡が取れないから片付けてよい」という話にはなっていません。できるようになったこととできないことの線は、依然としてはっきり引かれています。
何が業務として位置づけられたか
住宅セーフティネット法第62条第5号は、居住支援法人の業務として、入居者が死亡した場合における賃貸借契約の解除、および居室内に残された動産の保管・処分を挙げています。従来これらは、法的な位置づけが曖昧なまま現場が対応していた領域でした。
これらの業務を行うにあたっては、同法第64条により業務規程について都道府県知事の認可を受ける必要があります。国土交通省令では、業務規程に実施の手順を定めることが求められています。つまり「その場の判断で対応する」ことは想定されていません。あらかじめ手順を定め、認可を受け、そのとおりに実施する構造です。
解除と処分には別々の条件がかかります
実務上いちばん重要なのが、契約の解除と残置物の処分とで、満たすべき条件が異なる点です。
国土交通省と法務省が示すモデル契約条項では、残置物のうち換価もしくは廃棄の対象となるものについて、死亡から一定期間の経過と賃貸借契約の終了という二つの条件がともに満たされることが求められています。片方だけでは足りません。
死亡は確認できたが契約が終了していない。契約は終了したが死亡から所定の期間が経過していない。いずれの場合も、廃棄や換価には進めません。
さらに、処分にあたっては換価に努めることとされています。単に廃棄すればよいのではなく、財産的価値のあるものは換価を試みた形跡が求められます。相続人が後から現れる可能性を考えれば、当然の要請といえます。
見守りには記録の義務があります
居住サポート住宅では、安否の確認と、心身および生活の状況の把握が業務とされています。共同省令はその頻度についても定めており、安否の確認は一日一回、生活状況の把握は一月に一回が基準です。
そして見落とされやすいのが帳簿の記載義務です。異常を検知した年月日、そのときの状況、そして対応の内容を記録として残す必要があります。「センサーが反応しなくなったので様子を見に行った」という一連の流れが、日付と内容とともに残っていなければなりません。
この記録は、後から適切に対応していたことを示す唯一の材料になります。相続人との間で争いになった場合、あるいは行政の検査を受けた場合に問われるのは、手順書の内容ではなく、実際に何をいつ行ったかの記録です。
難しいのは、条件が揃ったかどうかの判断です
制度の設計そのものは明快です。難しいのは運用のほうにあります。
生活反応が途絶えたという状態と、死亡が確認された状態と、契約が終了した状態は、それぞれ別のタイミングで発生します。しかも情報の入手経路がばらばらです。センサーの記録、親族や関係者からの連絡、行政からの通知、契約書類。これらが揃った時点ではじめて次の手続に進めるにもかかわらず、揃ったかどうかを判断する仕組みが用意されていないことが多いのが実情です。
物件数が増えるほど、この判断は人手では追えなくなります。そして誤って早く進めてしまえば、相続人の財産を無権限で処分したことになりかねません。
いま確認しておくとよいこと
- 業務規程に定めた実施の手順と、現場の実際の運用が一致しているか
- 安否確認と生活状況把握の実施記録が、定められた頻度で残っているか
- 異常を検知した際の年月日・状況・対応が帳簿に記載されているか
- 解除に進んでよい条件、処分に進んでよい条件が、担当者間で同じ理解になっているか
- 換価に努めた形跡が、処分の記録として残る運用になっているか
運用でしのぐか、仕組みで担保するか
手順書を整え、担当者が確認と記録を行う運用でも、対応できる規模はあります。ただし条件の組み合わせで進めてよいかが決まる手続では、担当者ごとの判断のばらつきが生じやすく、記録の粒度も揃いにくくなります。
当社は、規制対応の適合性を人手の運用ではなく仕組みとして担保する技術を研究開発し、その成果を特許出願として保有しています。本改正が関係する領域についても出願を行っています。
自社の業務規程と実際の運用が合っているか、記録が求められる水準を満たしているか。判断がつかない段階でのご相談を歓迎します。該当性の判断は当社側で行います。
相談する出典
住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)第62条・第64条
国土交通省令・共同省令および国土交通省・法務省「残置物の処理等に関するモデル契約条項」
改正法の施行は2025年10月。改正の概要については各種の解説が公表されています。
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_01299/
本稿は2026年8月22日時点で確認できた公表資料に基づく整理であり、法的助言ではありません。具体的な条文および省令の規定については原文をご確認ください。個別の適用可否については専門家にご相談ください。