60分まとまって作業できた日、翌日のコンディションが上がった人88%——854名の行動データが映す、AIで空けた時間の置き場所
速くなったのに、楽になった感じがしない
AIで下書きが3分で出るようになっても、1日の終わりの疲れ方はあまり変わらない。心当たりのある人は少なくないと思います。
空いた時間が、たいてい別の細かい用事で埋まるからです。15分空いてチャットを返し、会議に出て、また15分空く。作業の合計時間は確かに減っているのに、1日の形は去年と同じまま、ということが起きます。
10月2日に公表された共同研究は、その「1日の形」のほうを数字にしていました。
854名の1か月を、70種類の行動データで見た
株式会社イトーキと株式会社松尾研究所は2026年10月2日、854名の行動データをAIで分析して「データ駆動型生産性推定モデル」を構築したと発表しました。
対象はイトーキ本社オフィスの従業員854名。2025年12月1日から31日までの1か月分について、オフィス稼働データ・カレンダー・メール・チャット・サーベイなどから70種類の行動データを抽出しています。内訳は位置情報が21、予定情報が4、オンラインコミュニケーション情報が45。職種は「設計・開発・企画」「営業・サービス」「管理」の3つに分けられました。
分析にはVAR-LiNGAMという時系列の因果探索手法が使われています。データの分布の偏りを手がかりに因果の向きを推定する「LiNGAM」を、時系列に拡張したものだと説明されています。相関を並べるのではなく「どちらが先に起きたのか」を推定しようとした点が、この研究の性格です。
60分の塊があった日の、翌日
出てきた数字で、いちばん具体的だったのはこれでした。
会議などに中断されず、60分以上まとまって作業できた日には…全職種のうち88%の従業員に翌日の心のコンディションの向上が確認されました
60分です。半日でも3時間でもありません。そして効いたのは当日ではなく、翌日でした。
会議については逆向きの結果が出ています。会議の数が多かった日は翌日の心のコンディション低下が確認され、3職種すべてで同じ傾向が見られました。そのうえで目を引くのは次の点です——影響が強く表れたのは会議の総時間ではなく、「会議がいくつ入っているか」のほうでした。
| 見ていた要因 | 翌日への向き |
|---|---|
| 60分以上、中断されない作業 | 向上(全職種のうち88%の従業員) |
| 会議の数 | 低下(3職種で共通) |
| 会議の総時間 | 数より影響が弱い |
「3時間拘束される1本」と「30分が4本」なら、後者のほうが響いている可能性がある、という読み方になります。会議そのものを削れないなら、せめて散らさない。
受信量は選べないが、発信は選べる
もう1つ、職種で差が出た部分があります。
営業・サービス職では、メール・チャットの受信が多い日に、組織内の人間関係や体のコンディションなど複数のコンディション低下が見られました。一方で、自分からオンラインで発信する行動は、組織内の人間関係のコンディション向上に影響していたと報告されています。
同じチャットツールの上で、受け取る側と出す側で向きが反対だったわけです。そして受信量は自分では決められません。発信は決められます。順番としては、受信の多さを嘆くより、自分から出す回数を1つ増やすほうが手が届きます。
この数字の範囲について
読み方の注意を3つ挙げます。
1つ目。対象はイトーキ本社オフィスの従業員854名で、1社・1拠点・1か月分です。発表元も、今後このモデルを異なる職種・拠点・企業へ展開して精度と適用範囲を高めると書いています。現時点で一般則として扱える段階ではありません。
2つ目。ここで動いていた指標の多くは「心のコンディション」「組織内の人間関係」「体のコンディション」といったサーベイ側の回答です。成果物の量や売上そのものではありません。「生産性推定モデル」という名前ですが、測っているのは生産性の手前にある状態だと受け取るのが正確です。
3つ目。因果探索は、あくまで因果の向きを推定する手法です。60分の集中が翌日のコンディションを上げたのか、調子の上がりそうな日だから60分を確保できたのか——この種の問いは、手法で確からしさを上げても完全には消えません。
それでも「会議は長さより数」「受信より発信」という向きの話は、自分の1週間に当てて確かめられる粒度にあります。
明日からできる3つのこと
- 明日のカレンダーに、60分の空白を1つ作る。 3時間ではなく60分で足りるとこの研究は示しています。空白のままにせず作業名まで書いておくと、会議の打診で埋まりにくくなります。
- AIで浮いた時間を、細切れで回収しない。 15分×4回ではなく60分×1回に寄せる。AIの使いどころを「速くする」から「塊を作る」に読み替えると、何を先に任せるかの順番が変わります。まとまった時間を削っている細かい作業——定型の返信、議事メモ、資料のたたき——が先です。
- 会議を減らせないなら、固める。 午前と午後に散った3本を午後に並べ直しても、「数」自体は減りません。ただ、空いた側に60分の塊が1つ生まれます。減らすのが本筋で、固めるのはその次の手です。
AIの話として語られることの多くは、作業1件あたりの速さです。この研究が見ていたのは、1日の形のほうでした。速くなった分をどこに置くかは、まだ自分の手元に残っている判断だと思います。
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相談する一次出典
- 株式会社イトーキ(PR TIMES)「イトーキと松尾研究所、854名の行動データをAIで分析し、「データ駆動型生産性推定モデル」を構築」(2026-10-02)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000689.000032317.html
経由記事
- 株式会社松尾研究所(PR TIMES)「松尾研究所とイトーキ、854名の行動データをAIで分析し、「データ駆動型生産性推定モデル」を構築」(2026-10-02)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000040.000113160.html
本稿は公表資料に基づく整理であり、法的助言ではありません。